7月末の音源審査から始まった夏のコンテスト、8/21の全国大会をもってようやく幕を閉じました。
〈曖昧小町〉は当日の賞こそ逃しましたが、全国から集まった28バンドの中でもまったくひけをとらない楽曲と演奏を披露することができました。
都大会決勝では(彼女らにとっては)悔いの残る演奏となりましたが、全国大会では実力を出し切ることができたようで、一同すがすがしい笑顔でした。
中杉音楽部、これまでたくさんの大舞台を踏んできました。その中で、たくさんの失敗、トラブルを目にしてきました。「練習通りの演奏をする」ということがいかに難しいことか、顧問としてはよく分かっているつもりです。今回この全国大会では、練習通りに演奏できて、本当に胸をなでおろしました。(そしておそらく、この全国大会に集まったバンドのほとんどは、その「練習通りに演奏をする」ということが実行できる実力者ぞろいでした。)
思い返せば1年前、YHMFライブ予選のころに「“曖昧小町”というセルフタイトル曲を作ろう」というあたりから、「物語型和風バンド」というバンドコンセプトが立ち上がったのだと思います。ここから約1年間、試行錯誤を繰り返すことができたことが、全国大会にまで到達できた大きな要因だと思います。
「和風物語」を意識して作った1曲目~2曲目をさまざまなところで披露してきました。その中で弱点もたくさん見つかりました。最大の難しさは、魅力的な物語を仕立てても、それを分かりやすくかつ魅力的な表現にまとめていくところです。物語は「展開」していくものですが、ロックやポップスというジャンルは、ある程度の「反復」が求められます。物語は「展開」するのに、サビは「反復」する――この矛盾をどう解決するのかを、メンバーは苦心したのだと思います。
今回のエントリー曲「舞狐」は、サビが2段構えになっています。JUDY AND MARYの「Over Drive」みたいな感じですね。「舞狐」のサビ1は踊り子に化けて仇(かたき)と踊る様子です。これは舞い踊る中で復讐の機会を伺うという意味では「反復」して良い表現です。また曲の雰囲気やステージングとしても盛り上げやすい場面です。続くサビ2は復讐に燃える心情表現です。これもこの楽曲の「思い」の部分ですから、「反復」するにふさわしい。その他の部分では物語を「展開」させつつ、サビでは述べてきたように「反復」をする――矛盾の解決としては非常によくできています。
そうしていよいよ復讐を実行するという緊迫した場面は、ギターソロ→キーボードソロという流れでその緊張感を表現しています。宴は続いているので、その雰囲気は残さなければなりません。先に「サビ1は反復」すると書きましたが、実質、サビ1の「歌」は反復していません。ですが、この間奏(ソロ)はサビ1の変奏になっています。テンポが変わるとはいえ、サビ1のシャッフル感が反復され、コード進行も同じような感じです。(このソロ部分を聞きながら裏でサビ1を歌うことができるようになっているのです。)「踊りは続いているけれど、いよいよ復讐を決行するぞ」という緊張感が上手に表現されている場面です。
「袖から出した刃」を「狙いさだめ振り下ろした」後、主人公の心情はどうなるのでしょう。――復讐を果たして気持ちがスッキリというわけにはいきません。復讐を果たす前も果たす後も、気持ちは変わらないし変わってくれないのです。主人公は連れ合いを亡くした冒頭部分で「壊れて」しまっているし、この復讐後の場面でも仇に「お前も一緒に壊れてよ」と訴えています。
つまり復讐の思いは事前も事後も変わらないのですから、サビ2は反復されるのです。
復讐の思いのザワザワした感じは、最後の「苦しんでもがきつづけて」のフレーズに引き継がれます。苦しんでいるのは、直接的には仇なのですが、「お前も一緒に壊れてよ」と訴えた主人公は復讐を果たした後も、やはり「苦しんでもがきつづけ」るしかないのです。そうしたやるせなさが、このエンディング場面の表現です。
こうして改めて楽曲の分析をしてみると、実によく考えられていることが分かりますね(当人たちが無意識的にやったところもあるかもしれませんが)。オリジナル曲を作り始めたばかりのバンドを見ていると「アレンジのためのアレンジ」になってしまうことが多いのですが、「舞狐」には「そのアレンジなければならない必然性」みたいなものが見えてきます。
顧問はプログレッシブロックが好きで、若いころに、QUEENSRYCHEの”OPERATION: MINDCRIME”とか、”Marillionの”Brave”といった作品に魅せられたクチです。いずれも、音楽を聴いていると映像が浮かんでくるような芝居がかった作品ですが、この点、今回の楽曲はこうした名作の狙いとよく似ていることが分かります。それは「物語」を意識して作詞作曲アレンジを繰り返してきた一つの成果だと思います。
全国大会に至るまで、何人もの審査員の先生からのコメントカードをもらいました。その多くが、「作品の世界観がよく分かった」と評してくださいました。多くの先生方が上記のような練り上げられた楽曲と表現を認めてくださったものと思います。
ただ一方で、こうした曲のつくり方は「聞く人に歌い手の思いやメッセージがグッと響く」という点では弱いところがあります。あくまで芝居型なので、演奏者が登場人物を演じているのであり、その演奏者の生の感情表現ではありません。したがって、誰もがこうした物語型をめざすのが「正解」ではありません。全国大会で受賞ならなかったのは、審査員の先生方が〈曖昧小町〉のような物語型よりも「生の感情表現むき出し」の表現を評価したのかもしれません。そこのところは、もはや運の領域です。音楽に「正解」があったら、面白くないですよね。ですから、高校生は「正解」を目指すのではなく、自分たちが表現したいことを音に変えていくことに情熱を注いでくれればそれで良いのでないかと思います。
〈曖昧小町〉の皆さん、ここまでお疲れさまでした。よく頑張りました。
そして、これまで〈曖昧小町〉と中杉音楽部を支えてくださった皆さん、本当にありがとうございました。
これからも引き続き、よろしくお願いします。
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日程:2015年8月21日(金)
企画:第3回 全国高等学校軽音楽コンテスト
主催:全国高等学校軽音楽コンテスト運営委員会
共催:東京都高等学校文化連盟・神奈川県高等学校文化連盟
主管:東京都高等学校文化連盟軽音楽部門
東京都高等学校軽音楽連盟
神奈川県高等学校文化連盟軽音楽専門部会
神奈川県高等学校軽音楽連盟
埼玉県高等学校軽音楽連盟
千葉県高等学校軽音楽連盟
後援:全国高等学校文化連盟
総合学院テクノスカレッジ東京工学院専門学校
株式会社ミュージックネットワーク
場所:東京工学院専門学校 体育館特設ステージ
時間:開場10:00 開演10:20 終演17:10
※お昼休憩を挟みます
見学:公開
出演:本校からは〈曖昧小町〉
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