部活動とライブハウス

この夏、とあるコンテストイベント(以下「S」)に参加しました。結果から言えば、「一定数客を呼ばないと審査対象としない」という条項に引っかかったため、賞には(ほとんど)絡めませんでした。

昨年まで、このイベントS、参加に当たって一定額がかかるライブハウスイベントだったため、何度か関係者から「出ませんか」のお誘いがあったものの、お断りをしてました。

ただ、エントリー料が無料になり、「すでに何度か参加した同種の別のイベントJ」に見かけ上似てきたために、エントリーを許可しました。しかし、エントリー後に、この「客を呼んだら審査する」の条項が明るみに出たため、「次回以降このイベントSには参加しない」宣言をしました。

このイベントSは複数会場・複数日程で予選会が行われるため、それらに分散することで、規定の人数を集めて審査に乗り、上位大会進出を狙うという戦略もありました。ただ、私はそれを良しとしません。

今後もいろんな企画から声がかかると思いますので、主に1年生に向けて、このイベントSからの撤退理由と顧問の方針を示しておきます。

1.大舘にとって、仕事のやりがいとは「それが教育的なものかどうか」

私は「教育」に携わりたくて教員をやっているわけです。ですから、教育的な場を提供できることこそが、お仕事のやりがいです。

翻って、すごく嫌いなのが「生徒たちを遊ばせるためだけに負担を強いられること」です。例えば、かつて私が学年主任だったとき、研修旅行からあらゆる遊びの要素を排除して、完全に「教育的なもの」だけを詰め込んだことがあります。当時の学年の生徒からも「お土産を買えるような場所に行くのか?」と言わせるほどでしたが、私にしてみれば「別に土産を買わせるために連れて行くんじゃない」との考えを持ってました。(一応、そういう場は用意しましたよ。) 保護者からも、「お勉強一辺倒ではなく、もう少し遊びの部分があっても良いのではないか」と、クレームめいたことを言われました。ふざけんな、子どもを教育機関に預けておいて、「遊ばせろ」とは何事だ。

話を戻しましょう(苦笑)

音楽部の活動は、端から見てたら、極めて「遊び」にしか見えないものです。バンド?ライブ?――それらは「教育」という言葉を連想させるようなものではありません。そして、実際のところ、音楽部の活動は「ただの遊び」にも堕しやすいものです。私は音楽部の顧問を楽しくやっていますが、自分で教育的な活動にすることが一定程度できているからこそ、やりがいをもってやれているわけです。たとえ、音楽部の活動であっても、それが「単に高校生を遊ばせているだけだ」と思えてしまったら、楽しくもないし、やりがいもない。

今回、このイベントSにたくさんの部員以外の君たちの仲間が演奏を聞きに来てくれました。彼らは私の顔を見て、「ディズニーランドに来てみたら、先生がいた」とでもいうような顔をします。ディズニーランドだって、ライブハウスだって遊び場ですから、当然のリアクションです。

2.校外での活動は顧問の引率を要する

これは学校のルールです。と同時に、先に書いた通り、私の目の届かないところでの活動は、「単なる遊びに堕す」可能性を多分にはらみます。私の仕事は、単なる遊びにしかならないかもしれない場に意味を与え、そこを学びの場へと変えることだと思っています。部員の皆さんからすれば、甚だ余計なお世話だとは思いますが、別にいいんです。私のやりがいの問題ですから。

引率を原則とすれば、おのずと私の都合には限界があるため、乱立する全てのイベントには参加できません。先述の通り、今回のイベントSの場合、エントリーの会場を分散させたり、あるいはエントリーバンドを絞り込んだりすれば、規定の人数を集めて審査してもらうことはできたでしょう。しかし、「分散」には私が対応できません。また、エントリーバンドを絞り込んで誰かが悔しい思いをしてまでして勝ちに行く価値のあるイベントとも思えません。(あくまで教員としての主観的な「価値」です。)

3.「高校生のサイフを直接あてにするようなイベント」には参加しない

この線引きはまことに難しいのですが――。基本的に私たちは、エントリーにお金がかかる、集客ノルマや、チケットノルマがあるものには参加しません。

高校生が入場料のかかるイベントに向けて一生懸命集客をすることは、「誰かが儲ける片棒を高校生が担ぐ」ということを意味します。そんなことには関わらせたくない。もし、誰かに見に来てもらいたいのであれば、無料で見てもらえる場を用意すればいいだけのことです。

今回のように「出演者からは金を取らないけれど、客からは金を取る」というイベントは、上記の意味合いにおいて、気乗りがしません。

(a)イベントJの場合

同種のライブハウス主催のコンテストイベントJも、「出演者からは金をとらないけれど、客からは金を取る」というイベントです。主催者も「集客もまた審査項目の一つだ」と公言しています。ただ、私はこれまで書いてきたように、部員が懸命に集客に走るのを好みませんから、「無理な集客はするな。その方針である以上、受賞は期待するな」と部員には伝えてあります。

ただ、このイベントJは結果として、本校のバンドに賞をくれました。「賞をくれたから良いイベントだ」というつもりはありませんが、集客が第一義なのではなく、日々の練習の成果や音楽性自体を評価してくれた、ということを言いたいのです。無理に集客をしなくても、見たい人は見に来てくれるし、一定程度公平に評価してくれる――という点において、こちらイベントJは顧問としては「アリ」です。

イベントJの信用度合いが上がったエピソードをもう一つ。このJを主催するライブハウスから、ある日本校のバンドに「ライブに出ないか」とのお誘いがありました。それはおそらくそのライブハウスが主催するライブで、参加するためにはお金がかかるものです。顧問の方針を伝え、お断りをするにあたり、「エントリー無料のコンテストイベントにだけ出演して、そういうライブハウス企画には参加しない学校は『良いお客さん』とは言えませんよね」――そんな主旨のことを伝えたら、「出演者をお客さんだと思ったことはない。ミュージシャンはパートナーだ」とのお返事をいただきました。「ああ、この人は(少なくとも)目先のウチの部員のサイフを期待しているわけではないのだな」と思えた瞬間でした。

(余談ですが、このイベントJ、来場した大人からは結構な額を取ります。ただし、「若者からはお金を取らず、お金を持っている人(=大人)から取る」という姿勢は昨今のビジネスモデルとしては正当ですので、そんなに不快ではありません。むしろ、もっと大人からは取ってもいいから、来場高校生の負担を減らしてもらいたいなあと思うくらいです。)

(b)イベントDの場合

もう一つ、民間主催のコンテストイベントDについても触れておきます。こちらは民間のイベント会社が主催しているものですが、協賛企業からお金を集めることで、エントリーも入場も無料を実現しています。実働はその民間会社でありながら、「実行委員会主催」の形態で実施し、その実行委員長や副委員長は専門学校の先生です。これは民間主催でありながら、公益性をアピールできる非常に上手なやり方で、教員としても安心して参加させられます。

Dの協賛企業は、基本的に「種をまく」ためにこのイベントに投資をしていると思います。つまり、直接高校生のサイフをあてにするのではなく、こうしたイベントを通じて音楽を好きになってもらって、将来的に音楽産業にお金を落としてくれる人になってくれれば良い――そういう発想です。

4.集客は悪なのか

「お金を払ってまでして聞きに来てくれる人がいる――その責任感や緊張感がライブを良いものにする」という意見を良く聞きますし、一理あるとは思います。「自分のためにお金を払ってくれる人に対して、それに見合ったエンタテインメントを提供しなければならない」――真面目な考え方だと思います。でもやっぱり、高校生部活バンドが有料イベントに向けて集客することには賛成しかねます。以下その理由。

(a)所詮は素人の高校生の演奏。お金を取れる領域にあるとは思えません。現状、「聞きたいっていう人がいるから演奏してあげる立場」ではなく、「聞いてくれる人がいるから、演奏させてもらう立場」ですよね。そんな人がお金を取っちゃイカン。

(b)だいたい、タダだって、なかなか足を運んでもらえませんよね。経済学的には、「わざわざ足を運ぶ負担をしてまで来てもらう」ということは、お金を払ってもらっているのと同種です。

(c)集客活動はマーケティングの勉強になる――それも一理ありますが、お友達の経済的負担を強いてまでしてマーケティングの勉強をしなくてもいいですよね。

(d)しかも、お友達が払ってくれたお金の多くは、ライブハウス関係者のところへ行くわけです。仮に、その一部が自分の懐にも入るとしても、なんだか友達からお金をふんだくっているみたいで、イヤじゃない?

――普段から「自己満足で音楽をやってはいけない」と、部員の皆さんには伝えています。だから、聞いてくれる人は必要です。ただ、その「聞いてくれる人」が「お金を払って聞いてくれる人」である必要は、ないんじゃないかと思います。

5.まとめに代えて

実は今日、ちょっと期待していたんですよ。仮に既定の人数を集客できなくても、評価してもらえるんじゃないかと。まったくもってうぬぼれたもの言いですが、今日演奏するウチの子たちは、そんじょそこらの高校生バンドには負けないくらいの高い音楽性と演奏力を持っていると思っていました。ヨソを聞くまでもなく。そうやって、圧倒的なものを見せつけられたら、主催者としても中杉のことを無視できなくなるのではないか、と。

実際、今日の4バンドは他を圧倒していたと思います。特に、オリジナル曲を3曲、4曲と並べた3年生は、その実力をいかんなく発揮できたと思います。「どうだ、これでもか!」と思いましたし、そういうレベルの部員を擁する部活の顧問として、とても誇らしい気分でした。主催の方が、中杉を無視できないとまで思ったかどうかは分かりません。また、イベントの方針を初日から捻じ曲げるわけにはいかない、という事情もよく分かります。

ですから、中杉としては、こうして負け惜しみを言って、撤退するのみです。

あ、でも、8/1の回にも4バンドエントリーしていますので、お世話になります。よろしくお願いします。

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