2000円で聴けるバンドの音楽で良いのか

高校生軽音楽部員が邦ロックしか聞かない問題は、本当に大丈夫なのか――「今の若いモンは」というオジサンの嘆きですが。

「CDアルバムを繰り返し聞いてたまに大枚はたいてライブに行く」

という時代が終わり、

「YouTubeやサブスクリプションサービス(あるいは脱法アプリ)で、代表曲だけ聞いて、ライブ体験を楽しむ」

という時代になりました。

「CDは売れなくなったけど、音楽産業自体は決して衰退していない」というのが、おおかたの現状認識だと思います。私も同感です。

ただ、「お手軽にライブに行けるようになった」「ライブハウスに活気が戻ってきた」ことの弊害を感じます。

それは、高校生バンドマンが「会いに行けるバンドしか聞かなくなっている」ということです。言うまでもなく、「会いに行ける」というフレーズはAKB商法を意識して使っています。「会いに行けることの価値」を世の中に(再?)認識させただけでも、秋元康(中附→中大)はスゴイですね。

高校生にはお金がありません。音楽の楽しみ=ライブ体験 なのだとしたら、当然ながら、数をこなしたくなります。3ヶ月に1回8000円のライブに行くよりは、最低でも月に1回2000円のライブに行きたい――そういう感覚でしょう。

ただ、反論を恐れずに言ってしまうと、
・2000円で体験できるライブ と
・8000円で体験できるライブ には
やはり大きな差があるはずです。

その差は、楽曲のクオリティの差であり、エンターテインメント性の差であるはずです。

もちろん、例外はたくさんありますよ。まだ見出されておらず、プロモーションもしてもらえず、良い機材を持つこともできず、広い会場でやらせてもらえる知名度もない――それでも、本来なら8000円を取っても良いようなアーティストが、そういう事情で2000円のライブをしていることだってあるでしょう。

ただ、平均的に考えれば、体験にかかる費用と、そこで得られるものは、やはり比例するのではないかと思うのです。

音楽が大好きな高校生バンドマンほど、2000円でライブを見られるバンドを応援することになります。2000円でライブが見られるバンドは、(ホントにごめんなさい)2000円程度の音楽であり、2000円くらいのエンタメです。(ジャニーズやLDH系に全く興味が無い人が、実際にライブに行ってみたら「やっぱ大金を取る人たちのライブはスゲーな!」と思った――という話はよく聞きます。)

これが、ただの高校生「リスナー」なら別にいいんです。稼げるようになったら、8000円のライブに行って、8000円の音楽とライブを享受すればいい。

ただ、高校生「バンドマン」となると話が違う。もし彼らに「2020年代の音楽シーン」を担うことを期待するのであれば、絶対に良いものに触れた方が良いに決まっています。古今東西の幅広く良質な音楽に触れることでしか、ブレイクスルーは生まれないはずです。(もちろん、そうした体験を経ずしてものすごいものを生み出してしまう天才だっているでしょう。いつだってどこだって例外はいます。)

サブスクやYouTubeをDIGれば、古今東西の音楽に触れることは簡単です。しかし、鈴木謙介や佐々木俊尚を始め、多くの専門家が指摘する通り、情報がたくさんあることはたくさんの情報に触れることを意味しません。サイバーカスケード効果により、個人の情報環境はタコツボ化し、より狭い情報にしかアクセスできなくなります。こうした時代にあって、どのようにセレンディピティ(偶然にして幸運な出会い)を得るのか、ということは音楽に限らず、現代社会で重要なテーマです。

昨今のフェスブームによって、「たまたま居合わせた場所で良いバンドを見つけた!」というようなセレンディピティを得ることができます。それ自体は良い。でも、2000円で見られるフェスで出会えたアーティストはやっぱり(以下略)

高校生バンドマンが毎月8000円のライブを見ることはできないが、15000円をとるアーティストの楽曲には簡単にアクセスできます。しかもタダで。――でも、聞かない。この状況を、軽音楽系の顧問として、どう乗り越えたら良いのか、まだ解決策が見えていません。

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